B2 「剽窃の論理」


2015年度 設計演習B 
第二課題「剽窃の論理」

上野の西洋美術館館長でもあった高階秀爾は、著書『ピカソ剽窃の論理』の中でパブロ・ピカソの「剽窃」作品を追求する。高階の研究に於けるピカソは、様々な作品の「剽窃」を繰り返し描くことで、過去の名作に構図を借りて自らの手練を極めていった。パブロ・ピカソが「剽窃」から連作を作製し、最後には自分の作品として昇華した様に、既にある絵画作品を「剽窃」することを通して、自らの作品表現を遡及的に「発見」することが本課題の主意である。「剽窃」する対象の作品について、作者、製作地、発表年、作品タイトル、作品サイズ、着彩方法を明らかにすること。一枚目は、対象の作品を克明に描くことを通して、その作者が何を意図したか、何を苦労したか、なぜその作品がすばらしいのかを自らの手で「発見」して欲しい。二枚目以降は、同じ主題を自分ならばどのように描くか、あるいはどこかを少し変えてみたらどうなるか等、ピカソになったつもりで大胆に表現を追求して欲しい。

提出物:ドローイング275×275mm枚数:表紙+2枚以上材料:表現する方法に準拠した材料を選択すること。また、「剽窃」する対象の材料についても考察できると尚よい。出題:4月22日 提出:4月29日(13:30厳守) 講評:5月13日




























1X14A137 増田 渓人 A+++

ピカソの「泣く女」を出発点としてその複雑な表情の中に込められたシーンを作者自身が「喜怒哀楽」それぞれに描き直し、そこに作者独自の視点と手法を重ね合わせ「colorism」という表題をつけた大変な力作である。それぞれの表現を丁寧に描き分けながら、ピカソの真骨頂であるはずの「剽窃」と「多重奏」を見事にやり返している圧巻の作品である。(早田




1X14A145 宮原 萌 A+++

ムンクの「叫び」を題材としながら、それを写しとる中で作者が感じたであろう感情をどうやって紙の上に定着させることができるか。それを様々な手法、様々な表現に朝鮮をすることで、身体家しようとするドキュメンタリーえお描き出した作である。一枚一枚が、実験的な習作に留まらず、ムンクの「叫び」を踏襲した、一連の作品であるという姿勢が、単なる剽窃の枠を超えた力強さを放っている。(早田) 









1X14A150 森 奈穂美 A++


ドガ「バレエの舞台稽古」、原画の見事な描写である。厚みのある表現が圧倒する。その直裁な剽窃作品は背景を赤い大きな布のスクリーンをたくし上げたものに変容されると同時に、「機械仕掛け」の人形のような新たな舞台に再配置され、生命を脱色されて数字を刻印された「構成の記録」となって新しい空間を作り出す。 

(入江)

























1X12A158 藤波 怜司 ルイス A++

表紙を入れて10枚の作品、バーネット・ニューマンのCathedraを剽窃していった作品。作者が剽窃を重ねるにつれて縦横比が崩れて行く中で、バーネット・ニューマンの画の資質が顕在化してくると感じられる。作品として丁寧に塗られた部分に好感がもてる。

(濱島)











1X14A059 後藤 夕希奈 A++

「若さと死」。画家が描こうとしたテーマの行きつく先を描いてしまっているものの、原画を描かざるを得ない人間の業を決して否定はしていない。視点の大きさと共にある種の達観、人間に対する優しさが描かれており、それは作中の開かれた窓に抽象的に表現されている。(山本)





















1X14A041 河畑 淳子 A++

名画中の名画の持つ力を再確認させてくれる作品。その意味でトレースを要求した出題意図を良く反映している一方、次の創作につながるヒントが得られたように見えない点はやや物足りない。(山本)







1X14A023 太田 歩 A++

富嶽三十六景をラワンベニヤとトレーシングペーパーに転写した作品。転写につれて江の内容がわずかずつ変化する、そこには不完全な情報伝達をテーマにした何らかのメッセージが込められているのだろうか。(山本)









1X14A003 青木 陸 A++

ジャコメッティ。「男性胸像」。作者のトルソのような胸像を描くことで、ジャコメッティの1960年の素描作品の表現の質が浮き彫にされる。ジャコメッティを発見して剽窃することが、逆にその剽窃された存在の新しさを問うているように思えるところが大変良い。(入江)










1X14A121 平井 周介 A++

モディリアーニ「セーラー襟の少女」。モディリアー二の長く延びて首の少女が、脱色された過程を経ながら、輪郭岳となり、図像が重なり、その重なりの動きの中にかしげた顔の位置が向きを変える。微かな動きのなかに、原画の少女の内面の動きを伝える作品。(入江)





  


1X14A156 山本 圭太 A++


「Carpe diem」、「Cow's skull – Red.White and Blue」。千の頭蓋骨を模写しその空虚さの先には、都市が描かれている。作者はどこか、死という絶対的なものを都市の中の孤独、群集の孤独という現代社会において、抗い様のないものとして重ねているようだ。しかし一方で「Carpe diem」–「その日を摘め」として、それを自身の問題として奮い立とうとする題をつけた、作者の気概と、ペン画作品の力強さを評価したい。(三角)































1X14A094 戸田 弘志 A++

ルドンの「人間」という選択、またその力強い描線を、見事に描きとった、作者の感性のするどさに、惹かれた。様々な作品を残したルドンの絶筆であるこの画が黒く塗り潰された人間とその生命観によって、色彩の豊かさがより鮮明に浮かび上がるのに対し、画面が黒く塗りつぶされことで、そこから色彩や生命がはぎ取られてしまった。ルドンという天才によって「黒」という色彩を改めて発見させられる作品である。(早田)











1X14A149 森 伽原 A++

エルンストを油彩画を色鉛筆で丁寧に描き出したが、それに物足りなさを憶え、同じ構図を借りながら、スプレーや油彩などの様々な手法を駆使して、全く別の作者自身の画として仕上げられている。エルンストという豊かな色彩や画法を持つ画家を対象としながら、その実物を見ることが出来ない、そのフラストレーションを、エルンスト風の実験的な画法にチャレンジし、それが誰でもない作者の絵として表現されたところに、高度な剽窃が実証されている。(早田)


















1X14A116  範田 明治 A++

絵画における身体性、それから、点、線、面の構成、コンポジションとして展開される。課題の主旨から考えると、おそらく三つ目の絵画はポロックとアルバースを足したものなのだろうか。であればただ単純にコラージュするのではなく、その手法を自分のものとして、表現して欲しかった。3つの絵の展開のリズム感は良いし、作者自身の意図をほのめかす表現も良い。(三角)




  




1X14A123 廣瀬 耀也 A++


障害者はプライバシ保護の名の下に抹消されるべき存在なのか。この作品の持つ問いかけは現在の人権意識に対するアンチテーゼとして興味深く、社会批判として鋭い意味を持っていると同時に、人権意識の薄い時代に描かれた筈の原画が持つ素朴な大らかさが浮き彫りにされている。(山本)









1X14A042 木内 星良 A++


歌川国芳。「みかけはこはいがとんだいい人ぞ」。ダマシ絵の一種で西欧ではアルチンボルドも有名だ。それを現代のラッシュアワーの乗り込む、作者が言う「無名の大衆」の涙ぐましい行状を「剽窃」する。その転換がユーモラスであり、ホームに向けて作られた貌は鉄道事業者への叱正であろう。(入江)











1X14A018 内田 端生 A++


前ラファエル派の名作もロマン主義のフィルターを外してしまえばただの水死体に過ぎない。絵は決して上手くないが、即物的な橋梁を背景にする、オフィーリアの顔を隠すなど、ブラックユーモアを強めるための演出が非常に巧みで効果を上げている。(山本)









1X14A022 大木 玲奈 A++

ゴッホ。「アルルのゴッホの寝室」原画をモノクロ写真に投写したように鉛筆で丁寧に描き込んでいるところが良い。プリントされた白黒写真が作者によって引き上げられ、両開き窓の境で引き裂かれるのである。そこから強い光が差し込んでくるのは、ゴッホの強い光が差し込んでくるのは、ゴッホの総された表現を伝えようとしたのだろうか。(入江)









1X14A029 荻野 智樹 A++

フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」、あまりに有名なその絵画の背景を描き出した作品。抽象的な闇の中に鮮明に一人の少女が描き出された元絵に対して、その背景が風景としての闇に置き換えられ、少女自身も全身が露にされることで、逆説的に、フェルメールが捨象したことで生まれる「意味」やその構図の精緻さが浮彫にされた。作者自身がそれに気づき、もう一歩踏み込んで、フェルメールの美的世界の深層まで進んでほしいと思わせる作品である。(早田)








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